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 昔から疑問に思っていた。ミュージシャンは音楽を、俳優はドラマを、芸人はお笑いを提供するのが仕事ではないのか? 何かプライベートやプライバシー、人生までもが商品なのかと思えてならない。青いだろうか、それが人気商売なのだろうか。ならば私には断じて向いていないと思う。引退を決意して良かったのかもしれない。  私はユキと待ち合わせをしていた。リイトのラジオ出演以来ユキは私のマンションへ戻って来ていない。会うのは1週間振りだった。死蝶の話をしていた女子大生が気になったが、場所を変える提案をメッセージで打つよりも早くユキはカフェに来てしまった。 「サブリナ、ごめんなさい。ユキ……」 「良いのよ。とにかく座りなさいよ」  当然ユキは私に会うのに気後れするところがあるのだと思う。一緒に引退すると決めていたのに、リイトの「それでも」という一言にオチてしまったのだから。でもそんな事ぐらいでユキとの友情が壊れたりはしない。むしろ深くなったと思う。
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