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「ユキちゃんはリイト様の彼女なんですか? 早いところ高音病で逝っちゃってくださいね。期待してますんで」  二人の関係を晒したラジオ放送、影響は高音病や解散という関心事以外にも出ていたようだ。熱狂的なファンが悪いとは言わない。おかげでミュージシャンは活動が生活が成り立つ部分がある。しかし私たちは名声と引き換えに多くのものを失っている、そんな気がしてならなかった。 「ユキ、気にしちゃ駄目よ」  ユキは伏し目がちに頷いていた。歌詞を描かないとみんなが怒るからと言った一言、もしかしたらあのラジオ放送以来、ユキのSNSは妊娠の記事を書かれた直後のように炎上したのかもしれない。今みたいなファンの声を直に聞いてしまったのかもしれない。  それでも自分でステージに立つと決めたんだ。はっきりとした意思をもって、ラジオ放送、リイトにメッセージを送った。こんなことでめげている場合ではないわ。 「ユキ、気にしないよ」 「ええ、もちろんよ。モンブラン食べましょ」 「うん――美味しい」 「よかったわ」  死蝶の解散ライブ一ヶ月前、戻り梅雨のじめついた日だった。
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