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「ならばお前はアユミとバンドを結成すればいい。俺は俺のポリシーを変えるつもりはない。俺の曲を歌わせるボーカルは、本物じゃなきゃだめだ。90年代、高音病を患いそして散っていった歌姫のような」  高音病、それは5オクターブ以上の音階をもった歌姫だけにかかる死の病。  しかしあくまで統計で、何オクターブ以上という明確な発症トリガーはわかっていない。今でも解明されずそれは謎多き不治の病だった。  ただあまりにも広すぎる音域が細胞を壊死させ、歌えば歌うほどに、命を縮めさせる、そのことだけはわかっている。それはミリオンセールを連発し90年代を彩った歴史の歌姫が、身をもって明かしてきた。  7オクターブという究極の音階、絶世の中の絶世の美女と謳われたソロアーティスト、リア。  十代、二十代からカリスマ的人気をほこりファッションリーダーとして一世を風靡した6オクターブの歌姫、アリス。  ミリオンヒットを九曲も作詞した5オクターブの歌姫、ロックバンド『DESHAN(デシャン)』のボーカリスト、白玲(ハクレイ)。  彼女たちは例外なく三十歳を迎えずして、その音階が出せる全盛期のただ中で散っていった。けれど歌声は永遠で、いまでも多くの人の心の中で生き続けている。    そう私たちのように。
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