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 最後の歌姫が去ってから二十年、あれからJ-POP界に高音病を患った歌姫は現れていない。それは時代なのか、アイドルユニットがダンスグループが席巻し、バンドが、ソロアーティストがなりを潜めるようになったからだろうか。  わかっている。時代のど真ん中に切り込んでいくためには、本物の歌姫が必要だってことぐらい。  ねえ、リイト、たしかにあなたには才能がある。あたなが作曲した曲は、ボーカルがいない、花が咲かない冬の枯れ木のようなあたしたちでも、その木を見にきてくれるファンはいるんですもの。  でもね、キンヤが言った通りだわ。ボーカルがいないんじゃ目指しようがない。ボーカルバンドでメジャーを夢見ているのなら尚更よ。あたなが求めるボーカリストは、過去にたった三人しかいなかった。  いるかもわからない歌姫を探し続けるなんて、当たらない宝くじを買い続けているようなものよ。最近そう思うの。  ただ、私はそれを口には出さない。  リイト、あなたの思いを知っているから。
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