【プロローグ】桂木鯖人<かつらぎさばと>「ねぇ、男を虜にする美人さん」

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【プロローグ】桂木鯖人<かつらぎさばと>「ねぇ、男を虜にする美人さん」

  「ふーむ……なぜ起こったか、の心当たりは?」  シトラスの香りのする、無造作にはねさせた栗色がかった髪を頬の横で人差し指に軽くからませ遊ばせながら。  頬杖をついた端正な顔の男が薄っすらとした笑みをその薄桃色の唇に浮かべ、偉そうな口ぶりで言った。 「どうしてそうなったかわかりませんよ! ただ、ずっと視線を感じて、大学に来るたび物がなくなって、私が座る席に手紙がいつも置いてあって……っ」  男と向かい合って座っているのは、肩を震わせ涙で目を濡らした女子大生、篠田菜穂(しのだなほ)だ。  座っていてもわかるほど背の高さが伺える華奢な脚はすらっと椅子の外へ流れており、膝丈のスカートを履いているから上品にしっかりと閉じられていた。背筋はぴっと真っすぐ伸びており、震える言葉を隠すように桃色の水玉のハンカチで口元をそっと隠す姿は育ちの良さと上品さの伺えるものであった。斜め横に結われた髪は肩から胸元近いところまで無造作に流れていたが、不格好なボサボサというものではなく、きちんと手入れされているのであろう艶のある髪で、窓から吹く風でふわっと揺れ動くさまは目を奪われるものがあった。前髪も縄上に編まれて耳にかけられており、すでに小さな顔がより一層小顔に見え、恐らく黒目が大きく見えるコンタクトを入れているだろうはっきりとした黒目が顔のバランスを美しくしていた。  すでに顔だけで満点ともいえる評価をもらえそうな彼女は、白のスカートに桜模様のマニキュアを主張するような白のサンダル、桃色の肩だしシャツという何とも露骨に男受けを狙っている春ならではの服装。そして、涙は決して零れることはないが、ずっと悲しみで濡れ続けている目をそっと上目気味に向けてくるあざとく小慣れた仕草。
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