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桂木が楽しく勤めている大きな大学内でも有名な、まだ20歳という大人の年齢に達していないからこその美しさがある美少女と噂の1年生だ。
そして彼女には、別の噂も、ある。
もう1つの噂にとても興味のあった桂木は、彼女が彼の専用としている部屋でもある<心理相談部屋>の、他の教師の部屋にしては重量感のある扉をノックし「先生、相談があるんです」とオクターブ上げたような声を可愛らしく絞り出し入ってきた時は心の内でそっと喜んだ。
――きっとこの事案は俺の大好物
その鋭い観察眼でそう察した桂木は、抑えきれない喜びを隠そうとすることもなく、その形の整った唇にずっと笑みを湛えていたのだ。
「鯖人せんせぇ……菜穂のこの辛い気持ち、わかっていただけますか?」
マツエクにより長く見せているまつ毛を伏せ、たまっていた涙を無理矢理零すようにうつむき、目元をハンカチで覆った。その喉から絞り出されるように紡がれた言葉は小猫が鳴くような可愛らしい声音で、女性から見たらわざとらしいようにしか見えないであろう。
――ふぅん……
初対面にも関わらず、先生という単語をつけているとはいえ迷うことなくいきなりの名前呼び。親しい生徒であればちらほらそう呼ぶ者もいるが、それは彼氏がいて確実に友達気分でいる女子大生か、チャラチャラとした男子大生かぐらいだ。
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