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その全てに当てはまらない、上品な雰囲気を醸し出す彼女に突然名前で呼ばれた男は、女慣れしていない者であれば恐らくイチコロであろう。
そういったことを彼女は完璧に心得ている。
「そうだねぇ。確かに、知らないところで変なことが起こるのは怖いよねぇ」
桂木は椅子の背に全体重を預ける様にもたれかかると大袈裟に肩をすくめ、「ああ君は何て可哀そうなんだ!」という気持ちをたっぷり込めたため息交じりの言葉を彼女へと向けた。
そんな彼の大袈裟な表現っぷりに菜穂は不快そうに一瞬眉を寄せたが、それは注視していないと他にはわからない程度で、瞬きをした次の瞬間には悲し気に下がる悲壮感漂う眉の形へと変わっていた。
ハンカチで顔半分を悲し気に隠すことにより、まだ幼いために隠し切れない感情を何とか悟られないようにしているが、桂木の目には誤魔化せない。それをわかっていてハンカチというアイテムを用いているのだとしたら、彼女は心理戦に対して中々の手練れかもしれない。
――意外と将来有望か?
彼女の表情の動きを瞬き1つ逃さず注視し、冷静に分析していた桂木に菜穂が動いた。
「先生、私、私……! 怖い……っ。きっと、菜穂のストーカーです。菜穂、いつも知らない内に好かれちゃって……っ、それでいつも、変なことが起こるから……! 先生ぇ……っ、助けて!」
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