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頬杖をつく桂木に前触れもなく抱きつきながら。菜穂は、涙ながらにそう訴えた。座る男の胸元に顔を埋めるように飛び込み、身体を出来うる限り寄せて。
彼女は、華奢な体をしていながら、その胸には小さすぎないものを携えている。
身体を寄せたら、ふわっとした感触に否応なく体のどこかが触れてしまえるほどに。
しかし、桂木はこんなことでは動かない。
なんせ彼はもう30歳。この端正な顔立ちを保ったまま生きていれば、20歳までに豊満な女体に慣れてしまうというものだ。
彼は目を細め視線を鋭くする。彼女の行動の真意を見定めるために。
さて、君の本当の心理は、なんだい?
「で? 俺に何を望む」
「え?」
突然氷点下まで下がったかのような彼の声音に菜穂は戸惑い、狼狽えながら彼を見上げた。
汚物を見るかのような視線と出会い、彼女の身体に言葉に表しようのない恐怖がヒュっと全身を駆け巡った。
さっきまで上機嫌で協力的な姿勢だったのに。
まるで別人格が現れたかのように表情が変わった。
その瞳は全てを見透かすかのような視線。
<心操る教師>
校内でそう囁かれている教師だ。
元々、一筋縄でいかないだろうことを菜穂は想定していた。
彼はどんな相談事も引き受け、その内容がどれだけ難解だろうと解決してくれる。
――――ただし。
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