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桂木鯖人「男を甘く見ちゃいけないよ」
「なんでここに……?」
悲鳴に近い声を上げ、菜穂は後ずさる。
「なんで? そりゃこっちのセリフだよ。まさかお前がこんなところにいるとは思わなかったっつの」
悪魔のような笑みを浮かべていた男は、その瞳をすっと汚物を見るような色へと変えた。
同時に笑みは消え、口元は怒りで震え始めた。
「先生、俺が言ってた奴がこいつです」
「ああ、やはり彼女か」
桂木と男の会話に、菜穂は「え、何? どういうこと?」と戸惑い始める。
そこに、か弱さを滲みだす涙を浮かべた可憐な美少女はいない。
自分の不利を悟り、戸惑い目を泳がすただ見た目だけがいい女がいるだけだった。
「面白いよー。要君、きみ、ストーカーだって」
「はぁ!? 俺が!? 詐欺師のてめぇに言われたかねぇよ!」
要と呼ばれた男は、その言葉で一瞬にして怒髪天を衝いたらしく、目を怒らせ声を荒げた。
「さ……詐欺師!? 私が!? ちょっと、失礼なこと言わないでよっ。名誉棄損で訴えるわよ!」
怒りの声に驚いて肩を竦めたものの、言葉に聞き捨てられないものが混じっていたために、菜穂も負けじと声を張り上げ対抗した。
端から見ればただの痴話喧嘩なのだが、こういう光景を見るのが大好物な桂木は傍観を決めた。
嬉しそうに口元を緩ませながら足と腕を組み、背もたれに体重を預けた。
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