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-6 呪いのかたち
「お兄さん、こんにちは」
「こんにちは」
姿は見えないが子供の声がした。ふらふらと左右を見る。ここはどこだろう? 妙に白い場所だ。
「お兄さん、魔法が解けるから思い出そうとしないで。それから、今日はもう来ない方がいい」
「どういうことだ?」
「さっきちょっと失敗したんだ」
失敗? なんのことだ?
見えない声が袖を引く。そうすると、袖口からなにか黒いかけらがポロポロとおちた。そのかけらはヴヴヴと音を出しながらふらふらと漂った。
「なんだこれ?」
「よくないもの。だから今日はここで見てて、もう1度来るなら明日以降で」
ぼんやりと白い世界を眺めていると、遠くから誰かが現れた。何かを引きずっているようだ。ゆっくりと近づいてくる。風景が白くてよくわからなかったが、どうやら地面は声の方に向かって傾斜して下っている。
少し濃い人影が薄い人影の両腕を引きずり、坂道を登ってきた。
はぁ はぁ
もうすぐだ
はぁ はぁ
もうすぐだ
「あんた大変そうだな、何してる」
どうぐをはこんでいる
「道具?」
そうだ
だいじなどうぐだ
「何の道具だ?」
げいじゅつのとうぐ
「ゲイジュツ?」
そうだ
「あんたは芸術家なのか?」
……
影は答えず、そのままずりずりと人影を引きずって俺の前を通り過ぎる。影が向かう先をぼんやり見上げると、少し先に家があった。
うん? どこかで見たことがあるような。声が袖を引く。
「お兄さん、お話ししよう?」
「何の話がいい?」
「出口のお話。1階のリビングのガラスが割れているから、そこから出られる。でも僕にはどうしたらいいかわからない」
「うん? 何の話だ?」
その場に座り込む。声の主は多分このくらいが目線の高さかな? 見えないけど。
「何の話かは後で思い出してもらえばいいよ。それから今通った人に近づくのは難しい。危険なんだ。昼ならいないから昼のほうがまだ安全。夜にあの人がいるときに近づくのは駄目だ、絶対ダメ。わかった? それから、どうしたらいいのかはやっぱりわからないけど、すぐに逃げられるようにしないとだめ」
「そうなのか?」
「ほら見て」
声は袖を引く。家の方向を見ると、さっきの影は家の玄関を開けるところだった。開けた途端、その影は家から出てきた黒い何かに飲み込まれる。俺の袖口に残っていた黒い粒もヴヴヴと言って家の方に向かって飛び去っていった。
「これでとりあえずは大丈夫。お兄さん、ここは夢。今日はもう来ないで。夜中の夢は危険。わかった?」
夢……?
「お友達のお兄さん、起こして。急がなくていいから」
お友達? ゆらゆらと肩が揺さぶられる感覚がした。んん? なんだ?
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