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-7 太陽の記憶
「お兄さん、無茶すぎるでしょ」
ぐう。頭が痛い。なんだこれ。ガンガンする。
ぼんやりと顔を上げると白い世界に寝転がっていた。
痛む頭を押さえながら起き上がると、それと同時に黒い粒が俺の体からぶわりと広がった。まるで埃をかぶっていた本を持ち上げた時のように。
「なんだこれ」
「よくないものだよ。それでお兄さんは多分これに餌だと思われている」
「なんで?」
「入ったからだと思う。多分、あの人がお兄さんを餌だと認識したんだ。中にいるものはこれの餌だと認識されている」
なんとなく、黒い粒から嫌な感じがした。手で服を叩いてはたくと黒い粒は地面に散らばり、ふよふよと漂った。たくさんの黒い粒はなんとなく集まって、俺のそばで集まり黒い塊になっている。俺から離れたことに安心して少し落ち着いた。
ぼんやりしていると遠くから鼻歌が聞こえてきた。そちらを見ると、濃い影が歩いてくるところだった。なんとなく前にも見たことがある気がする。
「こんばんは」
こんばんは
「楽しそうですね」
どうでしょう そうなのかもしれません
ふと気が付くと、足元の黒い塊がばらけて粒が少しずつその声の主の方に引き寄せられていく。前にも同じことがあったような。そういえば前に会った時、この影は何かを引きずっていた気がする。
「前にお会いしましたか? その時は何かを引きずっていたような」
ああ それはどうぐだ たいせつなどうぐ
「今日は身軽ですね」
そうだね こんどこそはとおもってる
おれはやっとみつけたんだよ こんどこそ
あんたもきょうみがあるの
「どうだろう」
このせかいにはたいようがない
太陽。見上げた世界は確かに均一に白く、太陽という存在は感じられなかった。
「ここは太陽がないんですね」
そうなんだ たいようはまたのぼらなくっちゃね
たいせつな だいすきな ありさ
ぼくのたいよう
影が少し笑った気がした。見えない何かが俺の袖を引いた。
もうすぐだ
影は再び歩き出す。この道の先に向けて。
道の先には一軒の家があった。
もうすぐだ
いつのまにか影は家の前にたどり着き、玄関を開けた。家の中から出てきた黒い何かが影に纏わりつく。
俺の周りにとどまっていた黒い塊の残りも全てそちらに転がっていった。体がようやく少し軽くなった気がする。
子供の声が袖を引く。
「お兄さん、これは夢だ。そろそろ帰る時間だよ」
「夢?」
「そう。僕は家。柚の住んでいる家」
「柚……」
世界の端がパリパリと割れていく。そうか、これは家の夢。
「無茶はしないでね。どうか」
「身に染みた。昼にまた会いに行く」
「待ってる」
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