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◇◇◇
「よかった!」
目を開けた途端、号泣する公理さんに抱きつかれた。少し酒臭い。酔ってるな。頬がひりひりする。
俺は体を確かめる。黒い粒は……ない。大丈夫だ、おそらく異常はない。
ほっと息が漏れる。途端に体の力が抜けた。なかなかにヤバかった。あのままだったらどうなっていたんだろう。額の傷が痛むのは直接的な生命の危険。
寝不足で判断力が落ちているのかもしれないな。でもまあ橋屋家の呪いとは性質が全く違うことがわかった。やはり前提も異なると思った方が良いだろう。
キンキンに冷えたとろとろのウォッカ。なめらかな咽越しの感触と官能的な香りがまだ口中に残っている。同時にひりつくような喉の痛みと割れるような頭痛。胃の炎症への追加ダメージ。破壊力が酷い。
心配そうに俺を見つめる公理さんが用意した水を口に含んでまとめて洗い流す。
「どのくらい寝てた?」
「5分くらいかな」
「そうか」
「今日はもう寝な。いまは扉が割れているから寝てもあの家とは繋がらない」
「割れている?」
「そう。家とちょっと話した。無理に引き込んだから反動で割れたって。実際割れたガラスみたいに細かいヒビが入ってる。ゆっくりと修復はするそうだけど、おそらく明日の昼までには向こうと繋がるほどには回復しないらしい。だから寝な?」
時計をみると時刻は午後0時。そうだな……酷く疲れた。ゆっくり寝よう。少しぶりの安眠。頭が痛すぎるけど。そういえばあの夢はいつの時点のことだろう。無理に引き込んだということはわざわざ設定をする余裕はなかったはずだ。一番シンプルな状況。呪いは1日をくり返す。そうするとくり返す1日の現在と同じ時間? 最後の日の0時の可能性が高いのかな。
ソファに寝転がったまま天井を眺める。白い天井。あの夢の中も白い世界。太陽ってなんだ?
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