-6 あの家の影

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 この前提で検討するとおかしなことが浮かぶ。  まず疑問なのは、何故橋屋一家の誰かではなく家に住んでいない貝田弘江が『呪いの依代』となったのか。  橋屋一家はずっとこの家にいたはずだ。霊を見るのに周波数が必要なように、呪いに合致する周波数というものがあるのだろうか。貝田弘江は呪いの影響を受けやすい体質で、近所だからこの家に訪れた時とかに少しずつ呪われたのだろうか。貝田弘江は『黒い幽霊』なり黒い瘴気なりに親和性があって何かの切欠で呪いに魅入られたのかな。だから貝田弘江は橋屋家を塀から見ていた? うーん、やはりここも保留。  しかし『黒い幽霊』か。恐らく俺は『黒い幽霊』自体を認識できていない。貝田弘江に黒い瘴気がまとわりついているのは見たが、それはただ貝田弘江を包んでいるだけで、ゴムみたいに橋屋一家の影くっつく姿は見ていない。  それから『黒い幽霊』はいつ貝田弘江に付着した? 夢で公理さんが見たのは惨劇が発生した時点だ。公理さんは扉から覗いた隣家にいる貝田弘江を『鬼だ』と言っていたが『黒い幽霊』に囚われているとは言わなかった。2階で呪いの根本と接触した時に初めて貝田弘江に『黒い幽霊』が付着したのだろうか。だが夢と扉は違うかもしれない。  やっぱりそこは特定できないな。俺はそもそも見えないしなぁ。うん、俺は幽霊なら見えない。困ったな。やはり公理さんに頼るしかない。  今検討できる事項はこんなところか。  あとは手探りだ。だが方針は立てないとな。  橋屋さんは夢では一応会話はできた。しかし感触はあったが触ることはできなかった。とすれば家から出すには説得するしかない。  貝田弘江を家に入れないのが1番だろうが、同じ日を繰り返すのであれば無理だろう。俺が壁を抜けられるように勝手に入ってくるだろう。俺の見たものと公理さんの情報を合わせれば最後まで立っていたのは貝田弘江だ。貝田弘江は恐らく橋屋一家を殺した後、何らかの理由で自殺したんだろう。  1人、夢に現れていない人物がいる。そちらが糸口になるかもしれない。 「じゃあ、行こうか」  せっかく笑顔で話しかけたのに公理さんは凄く嫌な顔をした。
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