-7 第一夜の終わり

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 俺は貝田弘江はそもそも見えないわけだが、公理さんのいう通りだとすると現在時点で貝田弘江に『黒い幽霊』は付着していない。『黒い幽霊』はやはり家に入った時又は『黒い幽霊』に接触したときに付着するのだろう。  ただ呪いの影響で顔貌等が変質しているのだと思われる。これは橋屋家を訪れた際などに少しずつ変質していったのかもしれない。うーん、まだ呪いが目に見えてないだけで慣れたんじゃないと思うけど、公理さんには黙っておこう。  貝田家のご主人の顔写真を頭に浮かべると、ぶつぶつと言う声が聞こえだした。貝田弘江を説得できそうなのは唯一この人だけだ。 「そこに殴られてる男の霊はいるか?」 「そもそもこの殴られてる人は霊なんじゃないの? どうみても死んでるけど口がパクパクしてる」   弘江、どうしてこんなことを  男がいると認識すると、その声はより明瞭になった。俺は振り向いて何度か呼びかける。 「貝田さん、聞こえるか」   ……君は誰?  意思疎通もできそうだ。上々だ。 「俺は隣の家の関係者だ。なんであんた奥さんに殴られてる」   わからない   弘江はずっと隣の家から夜中に大声が聞こえると言っていた   でも俺には聞こえなかった   橋屋のご主人と相談して家の中を一緒に見せてもらって 弘江の誤解を解こうと思っていたんだ 「そうか、もともとあんたも行く予定だったのか」   そう 橋屋さんはこれで納得してもらえないなら引っ越しをすると言っていた 本当に申し訳ない   ……そうだ だから俺は弘江に 橋屋さんのお宅に女の子がいなかった場合 それでもいると言い続けるなら俺にはもう理解できないから別れたいと言ったんだ そうしたらこうなった  夕食を食べている家族の団らんに重なり、ガツガツという男が殴られ続ける音が響く。とても奇妙だ。 「あんたの奥さんはこのあと橋屋家に行って一家を皆殺しにする。俺はそれを止めたい」   なんだって!? まさかそんな…… 「あんたが殺されてからもう何年も経っている。その間、毎日橋屋家もあんたも奥さんに殺され続けている。この毎日を止めたい」   そういえば、なんだかずっと同じことをしている気がしていた 俺に何かできるだろうか 「まだわからない。とりあえず付いてきてほしい。公理さん、貝田さんはどこにいる?」 「ちょうどこの部屋の真ん中あたり」
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