-7 第一夜の終わり

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 俺は貝田さんがいると思われるあたりを見ながら、付いてきて欲しいと頼んだ。公理さんの言うところでは貝田さんはおとなしく後ろをついてきて、一緒に庭から橋屋家のリビングに上がる。   貝田さん!? その怪我はどうなされたんです?   夜分にすいません 私 妻に殺されまして  何だこの会話。空気にどよめきが広がる。見えないのでピンとこないが。  橋屋一家と貝田さんは会話ができるようだ。橋屋一家を意識すればより声は明瞭になった。 「橋屋さん、あんたらも貝田の奥さんを家に上げれば殺される、だから家に上げるな」   しかし……   俺たちが呼んだんだ 「その結果、あんたらも殺される。殺されたいわけじゃないんだろ?」   当たり前だ   そもそも誤解を解こうと思って呼んだんだよ 「無理だ。誤解は解けない。貝田さんのご主人でも殺された。嫌われてるあんたらが殺されない道理はないだろ?」 「ねぇちょっと、鬼が塀から覗いてる」  振り返るがやはり俺には見えない。だがいるというなら好都合だ。俺はその方向を指し示す。 「あんたらあれを見ろ。あれがこれからあんたらを皆殺しに来る貝田さんの奥さんだ」  引き攣る空気。これまでの妙にフラットだった空気からの変化。  よし、感触はいい。このままなんとか   しかし 俺たちが貝田さんを呼んだんだ  チッ。元に戻った。頑固で嫌になる。そういえば公理さんは言っていたな。幽霊は情報量が多いほど情報に囚われる。死んだ時の記憶に引きずられすぎているわけか。だから地縛霊みたいなのが存在するんだよな。もう何年も殺され続けてるわけだ。よっぽどだな。  しかもここは呪いの震源地。この家からは出られない。貝田家より呪縛が濃いんだろう。どうすればいい? どうすれば説得すれば呪縛から解き放たれるのか。   出ていきましょう  小さな声が空気を震わせる。この人は最初からずっと出て行きたがっている。
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