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耳元でゴクリと唾を飲み込む音がした。
弘江。私が悪かった
あなた……?
弘江、俺はお前を信じていなかった でもお前は本当に聞こえていたんだな 声が
声……そう、そういえば
大丈夫 誤解はとけた もう大丈夫 弘江は何も間違っていない
あなた ごめんなさい
まずい、腰まで瘴気が積もってきた。息が苦しい。額の傷の痛みが強まる。貝田弘江は小柄だ、もう胸まで呪いに浸っているんじゃないだろうか。呪いが解けても呪いに飲まれたらどうなるかわからない。鬼に戻るかもしれない。
時間がない。
「貝田さん急げ、奥さんがもたない。呪いに飲まれる」
大丈夫。一緒にいこうか
一緒に?
そう。おいで
「……ハル、貝田さんたちは外に出た。ハルも出て」
急いで窓のすき間から飛び出す。それと同時にフッと額と首筋の予兆も消えた。間に合った。冷汗が背中を流れ落ちる。もうすぐ胸に至るところだ。心臓を浸されるのは正直ヤバい気がする。
改めて家の中に目を向ける。窓の大分上の方まで瘴気に浸されて黒く染まっていた。これ、この後どうなるんだろう。
なんとなく見ていると、先程まで積もっていただけの瘴気が形を取り始めた。何が起こっている?
瘴気は何人かの人の姿になる。その人影の1人が窓に近づいてきた。シルエットからすると髪の長い女性か?
その人影は首を伸ばして窓越しに俺を眺める。再び首筋がチリチリし始める。これは俺に不幸をもたらすもの。ほっとしたような公理さんの声が聞こえた。
「ハル、貝田さんたちもキラキラして消えた。これで呪いはとけたのかな」
「そうか、じゃあ次の呪いだ。公理さん、すまない」
俺は振り返る。その瞬間、繋いだ公理さんの手から力が抜け、ドサっと公理さんがソファに崩れ落ちる音がした。
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