-2 大量不審死事件

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 情報の整理をする。  まずは対象の特定。  家は呪いが積み重なっていて上の方から取り除いて欲しいと言っていた。そして1番上の呪い、つまり橋屋のバイアスは取り除いたとも言っていた。では今1番上にあるのはあの家で最後に見た複数の影、小藤亜李沙を含む大量不審死事件のバイアスだろう。  これを解決し、このバイアスを消滅させる必要がある。  何がこの事件の本質だろうか。橋屋撲殺事件の中心が貝田弘江だったように。それとも各死亡者がそれぞれ等しく事件の本質なのだろうか。  問題が発生。  死者が特定できない。  この事件は死亡者が死亡した時期に隔たりがある。歯や骨折痕から確認が取れたものを除き、古い事件ほど身元不明者が多い。まあ当然だろう。白骨なら指紋もないからな。骨からDNAを抽出することは可能なようだが、警察はDNAデータベースを持たない。  頭蓋骨から顔の復元等が行われているのだろうが、警察発表でも特定できなかったと思われる者が9名。正直古い事件から辿るのは不可能だ。わかる者から手を付ける必要がある。  他にこの時点で検討が可能な事象。  橋屋事件のバイアスが消滅したことによる効果。  1つ、バイアスが消滅したと思われるとき、瘴気が小藤亜李沙を含む不審死事件の被害者の姿を取った。瘴気というより媒体なのかな、呪いを形作るための器。そんなイメージだ。仮に『呪いの媒体』と呼ぼう。  俺が橋屋事件の中で存在を認識できたのは橋屋家と貝田家だけで、明確に姿を認識できたのは『呪いの媒体』をまとった姿の貝田弘江だけだ。俺は橋屋事件の中にいる間は不審死事件の死者を認識できなかったしその声も聴いていない。  その姿の変質・顕在化は、公理さんが貝田さん夫婦がキラキラ光って消えたと言ったタイミングにほど近い。きっかけは、やはり前の呪いバイアスの消滅か。  あの死者たちは貝田弘江のように『呪いの依り代』なのだろうか。それともたまたま『呪いの媒体』の満ちた部屋で『呪いの媒体』と同化していたからはっきり見えたのか。それはもう一度夢で確認しないとわからないだろう。  2つ、橋屋事件のバイアスの消滅によって橋屋事件から不審死事件へ家の呪いが大きく変質した。変質といういい方は不適切かもしれない。呪いの位相の遷移、大量不審死事件という異なる世界線へのシフト。  とすれば橋屋事件で利用できた前提はもはや利用できないと考えたほうがいいだろう。例えばリビングの窓から庭に出る通路。あれは橋屋の次男が開けたものだ。  現在のところセーフティゾーンは柚の部屋だけか。家は柚の部屋は最初の呪いである位波家の母親が入れないから他の霊は入れないと言っていた。前提は古いほど確保されるのか?  他の事件を先に調べたほうがよいのか……?  いや、やめた方がいいな。すべては不確定に思われるし記憶が混同した場合に足をすくわれる。まだ先は長い。余剰な情報はない方がシンプルでよいだろう。  不審死事件にまつわる何冊かの雑誌を借りて図書館を辞した。
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