序章2 幸せなマイホーム、になりたかったあの日

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 みんな笑顔にならないのかな。  僕は『幸せなマイホーム』じゃないのかな。  すごく悲しい。僕は誰も幸せにできない。どうしたらいいんだろう。  悲しくて悲しくて、気がついたら僕は泣いていた。  それからまた時間が経って、若い女の人が僕の家を借りた。  もう、誰も住まないで。僕は誰も幸せにできない。  みんな不幸になって死んじゃう。  僕はこの家の死んじゃった人たちを止められない。  だから住まないで。お願い。  ぼくは玄関をくぐる女の人を祈りながら見た。 「なんだろ、なんか懐かしい、この家」  女の人はぼんやりと玄関を見回す。  あれ? この声。それからこの懐かしい感じ。  ひょっとして……ひょっとして?  女の人は玄関に座って、玄関脇の廊下の壁に頭と右肩を持たれかけた。  壁を伝わって、トクトクと生きてる人の暖かい音がする。  それでその人は、目を閉じて独り言を呟いた。 「呪いの家って聞いたけど、あんまりそんな感じがしないな。……私は久里手(くりで)柚。しばらくよろしくね」  やっぱり柚ちゃんだ! 苗字は違ってるみたいだけど柚ちゃんだ!  柚ちゃん生きてた! 嬉しい!  でもここにいちゃだめだ! 早く出ていって!  お願い!  誰か! 助けて!
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