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「最終的には見てもらいたいがその前に俺が夢で調べる。公理さんホラー映画好きなタイプじゃないだろ?」
「無理無理、俺が好きなのはラブな映画なの」
「そういえば行方不明者の件はどう?」
「連絡先知ってる何人かはLIMEしてみたけど普通に返事は帰ってきた。あとはクラブに行ってみないとわからないな。一緒に行く?」
「未成年誘うなよ」
「ええと、未成年でも大丈夫なのある」
公理さんはおもむろに携帯で検索を始めた。必死に話題をそらし始めた。わかりやすい。でもまぁ、公理さんには頑張って見てもらわないといけない。リラックスは必要だ。
「シレンティだったら今日デイイベントやってる。えーと、昼にやってるライブで3時からだから未成年も入れるよ。ネオシティポップ。好みかはわからないけど。柚もたまに来るクラブ」
「あんま騒がしくない系?」
「どうだろ、俺は昼はいかないし」
「わかった。それから一瞬だけ見てほしい、部屋の雰囲気がかわっているかだけ」
公理さんは胡乱げな目で俺を見る。そろそろ信用が地に落ちたかな。仕方がない。指でくるくると周りを指し示すと公理さんもつられてキョロキョロ見回す。
「さすがに俺もこんなヒソられた中で公理さんを気絶させたりはしないから」
「本当に、一瞬だからね? 本当に」
「わかった、1分。短いから手を重ねるタイプでいい」
「1分って一瞬なのかな……」
俺の手の上に公理さんの手が重ねられる。
俺は目を閉じてあの家を思い浮かべた瞬間、手の甲に爪をきつく立てられ、すぐに目を開けると公理さんが口を引き結んで俺を睨んでいた。
ちょうどお替りのお湯が運ばれてミントの香りが広がる。
俺はあのリビングの階段側を思い浮かべて目を閉じた。俺の視界には一瞬リビングの反対側の階段が浮かんだ。とすれば公理さんはリビングの中を見たはずだ。やっぱりな。申し訳ないな。
ひっくり返した砂時計の砂が落ち切ったのを確認し、公理さんのカップにゆっくり注ぐとミントの清涼な香りが広がる。額に手を当ててうつむいたままの公理さんの前にミントティーを差し出す。
視覚にも消臭効果は聞くといいんだけど。
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