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「幽霊はいた?」
「……千切れたのとか普通のはいた。昨日見たみたいなのはいなかった」
「そうか。すまなかった」
「わかってて見せたでしょ。俺もう見ない」
「1分以内だしすぐ起きただろ?」
「そういう問題じゃない、無理」
「……急ぎ確認したかったことはわかったからとりあえずは大丈夫。あとは俺がなるべく夢で調べる。でも最後は手伝ってもらう必要がある」
「無理だってば!」
公理さんの大声にカフェ内の注目が集まる。
「落ち着いて」
「無理、ほんとこれ系は無理」
ぶすっとしてテーブルに突っ伏して耳を手でふさいだ公理さんの耳元に口を近づけ小さな声で話す。
「智樹、聞け。俺が死んだら次はお前があの中だ」
ぐぅ、とくぐもった呻きが漏れる。
「大丈夫、俺で留める。そのためには最低限協力が必要だ、わかるだろ?」
「…………やだ、ハルは見えないからそんなこと言えるんだ」
「見たことはある。呪いを探したのはお前だ。俺は巻き込まれただけだ。責任を果たせ」
「……ハル、ほんと鬼だよね」
「なんでも食べたいもん作ってやるから」
「……じゃあオムライス食べたい。あちょっとまって、しばらく米はなし! うぅぇ。えと、俺が食べられそうなやつ、連想しないやつで美味いやつ」
「わかった。尽力する」
はぁ、と大きなため息をついて公理さんは耳から手を離し、テーブルの上で腕を組んでその上に頭を横たえた。
俺がどうしても知りたかったことは確認ができた。俺は幽霊が見えないからな、申し訳ないが公理さんに確かめてもらうしかなかった。
重要なのは世界が変化したかどうか。あの家の中の世界は橋屋の世界ではなく大量不審死事件の世界に変化していた。やはり橋屋のバイアスの消滅によって大量不審死事件の世界が一番上に来てる。世界が変わった。その前提で動かないといけない。
15時近くになるまで、公理さんと事件と関係ない趣味の話をした。心の余裕は大切だ。まだ先は長い。
シレンティはカフェを出て繁華街を抜けた西側にあった。飲食店がたくさんある場所の地下1階。打ちっぱなしのコンクリートの狭い通路を下って扉を潜る。
入る前から音楽が聞こえて少し不安に思えたが、中の喧騒はそれほどでもなかった。高校生や大学生が多いが混んでいるというほどではない。ネオシテイポップは踊るには向かない気がするけど、もともとアンビエント系のクラブらしいからいいのかな。公理さんが俺の分もチャージを払う。
ジンジャエールを受け取って隅でぼんやりしている間に公理さんは楽しそうに色々な人に話しかけている。俺と違って交友広いよな。俺も音楽を聴くのは嫌いじゃないが、このチカチカする照明は落ち着かず、少しだけ居心地が悪かった。
その日の調査で柚の周りで行方不明になった者は1人。リクっていう人。公理さんは知らない人だった。他に誰か心当たりがいれば知らせてほしいと言伝を残してクラブを辞した。
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