幼馴染みとの日常1

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幼馴染みとの日常1

中学 日常 日常 前半 小学校高学年の頃から片鱗が現れていたが、中学になると、圭の「俺の匂い」フェチは顕著になっていた。 朝は、家が隣の俺の家に迎えにきて部屋を開け、俺の頭を嗅ぐことから始まる。 圭は、幼い頃から仲良く遊んでいて、顔も頭も良く、運動神経抜群で性格も穏やかなので、俺の親からの信頼も絶大だ。なので、俺の部屋まで顔パスである。 朝から鼻息荒くクンカクンカ匂いを嗅がれてすやすや寝ていられるほど俺の神経は太くない。この激しい目覚ましのおかげで、遅刻したことは一度もない。その事も、親からの信頼を得る一端となっていると思う。 俺の朝ごはんの時間は、子泣き爺みたいに背中にへばりついている圭をくっつけながら食べている。最初の頃は抵抗していたが、今はもう諦めた。 目玉焼き食べてるときとかに、醤油に手を伸ばす前に取ってくれるから便利だし、まあいいかなって。 因みに、母さんは「今日もべったりねぇ」っておっとり笑っている。父さんも同じだ。似たもの夫婦め。 流石に登校中は隣を歩いている。一日のなかで貴重な、圭が俺の隣にいる時間だが、信号で止まると素早く俺の背後を取る。お前はなんとか13か、子泣きジジイかと突っ込みたくなる。 実際に、一度突っ込んでみたことはあるのだが、「純太専用のスナイパーになる。」と、訳のわからない宣言をされたので、それ以来放置している。まぁ会話の途中で声の出所がが隣から後頭部にかわるくらいで、慣れれば大した問題ではない。 そんなわけで前や隣に瞬間移動するこいつを放置している。中学も半ばになると俺もこいつも成長期が訪れて、170cm近い結構デカイ男子2人に成長した。もちろんまだ伸びている。なので、端からみたら大分暑苦しく見えるだろうと思う。夏とか視界の暴力レベル。 俺の方が数cm小さいのだが、その程度の身長差だとつむじに届かないらしく、時々「もうちょっと縮んで。」と無茶な要求をされる。もちろん、「お前がもっとでかくなればいいだろ。」と返している。ま、俺もまだ成長中だし、その内抜かしてやると心に決めている。 圭とは同じクラスなのだが、こいつは何度席替えをしてもなぜだか必ず俺の後ろの席をゲットする。圭と席が近いのは嬉しいからその事自体は別にいいんだけど、毎回毎回すごい運だなと思っていたのだ。しかし、ある時見てしまった。圭が「佐々木さん、目が悪かったよね?席変わるよ?」と俺の後ろの席になった女子に微笑んでいた。 巷では天使の笑顔と言われているあれだ。 野鳥の会に参加している裸眼で視力バッチリのその女子は、笑顔でごり押しされてるのに気付いているのかいないのか、「はい!」と元気よく席を代っていた。まぁ、合意なら、いっか。ん?いいのか? 佐々木さんは、「私、目が悪くて困ってたの。ありがとう、柏木君て優しいのね。」と、目がハートマークだった。いやいやいや、あなた、裸眼で50メートル先の鳥を見つけられるって友達に自慢してたじゃん! と思ったけど、触らぬ神に祟りなし。俺は放置することにした。 とにかく、圭は、運ではなくて実力(?)で俺の後ろの席をゲットしていることが判明した。 俺は休み時間は毎回背中に子泣き爺、もとい圭をくっつけたまま係の仕事をしたり移動教室に向かう。流石にトイレの時には遠慮してもらっているけど。 圭も、「それはまだ早いと思っている。」と素直に離れてくれるが、早くなくてもトイレには連れて行かないと心に決めている。当たり前だろう?後ろから覗かれるなんて冗談じゃない、絶対に嫌だ。 体育がある時の圭は特にヒドい。体育の後は授業中とかも関係なしに匂いを嗅いでいる、気配がする。振り返ってもにっこりと笑う幼馴染がいるだけなので、俺の自意識過剰かと思っていたが、ある時、窓に写った幼馴染の姿を見て、疑惑が確信に変わった。 窓ガラス越しに目が合うと、あいつは「ヤベッ、見つかった!」みたいな顔をしてから、ヘラリと笑った。 そのまま後ろを振り替えると、やはり笑顔の圭がいた。 「純太、許して?」 てへっとでも言いそうな顔で悪びれもせずウインクをされた。その笑顔に「仕方ないなぁ」と思いながらもつい半目になりながら深くて長いため息をついてしまった。 結局のところ、俺はこの幼馴染みを突き放すことなんてできないのだ。
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