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「た、たすけて、苺ちゃーん!」
蒼苺のドアを叩いた時には俺は頭からずぶ濡れになっていた。なぜか急にゲリラ豪雨が俺を追うように発生して、今はこのへん一帯だけ降っている。
「おいこら、居留守こいてんじゃねえぞ、俺だ、開けろ、蒼苺ーっ!」
姫宮蒼苺は腐れ縁の作家仲間だ。
こいつの家にもインターフォンなんて洒落たもんはついてない。
「なんだお前か。また借金取りかと思ったぞ」
ぬっとなまっちろい顔を出した中年男性。
これが姫宮蒼苺だと知ったら、こいつにわずかについているファンのおっさんたちは怒り狂うだろう。
こいつは日本一性格の悪いウェブ作家で、そのペンネームが女に見えることを知ってて敢えてそう名乗っている。
曰く苗字だから男に姫とついても仕方ない、だとか。嘘つけ、お前んちの表札田中じゃねえかよ。
まあいい。今はこいつの助けでもいいから借りないと、危険が危ないんだ!
「苺ちゃん、ちょっとパソコン貸して。俺の小説削除しないと命が危ない!」
「すまん、いつにもまして言ってる意味が分からない」
とスカしたセリフを蒼苺が吐いたタイミングで、ぐらんと地面がのたうった。
「ぎゃー地震! 小説の祟りじゃー! 死んじゃうーっ!」
蒼苺が訝しげに、しかし何かを察して俺を部屋に入れてくれた。
「俺の小説が読まれすぎて宇宙の法則が乱れて世界が破滅に向かってるんだ! 特に俺めがけて危険が目白押しなんだ。とにかくあれを削除しないと死ぬ、だからパソコンを貸せ!」
「まったく筋は通っていないが、とりあえず使っていいぞ」
さすが蒼苺、イヤな奴だが使える男だ。
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