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俺の小説を読まないで!
「今さら何を言っても無理だから」
ひどく尖った冷たい声で彼女は俺を見下(みくだ)した。軽蔑の色をありありと浮かべて、虫けらでも見るみたいに続ける。
「だいたいあんた、自分のトシ分かってる? もう三十四よ、三十、四! いい加減大人んなってよ。バッカみたいに夢なんか追いかけていないで、さあ」
「来年まで待ってくれよ……こないだ出した隅田川蘭歩賞の結果が出るから! これで落ちてたら俺、警備員でもトイレ掃除でもなんでもするから……!」
「くどい」
俺の前では一度も吸ったことのないタバコをバッグから平然と取り出して、慣れた手つきで火をつけた。
ついでに、スパァと俺に煙を吹きかける。
「あたしそれ、この三年間聞き飽きてんですけど? いい加減理解できない? あんたには才能が、ないの。ひとっかけらも、ね」
それで俺も納得した。白濁の煙を素手で払いのけて俺は言う。
「そこまで言うなら別れよう! 隅田川賞の賞金はお前には一円も、やらん!」
「ハッ! 貰えてから言いなさいよね、そういうセリフは」
もし貰えてたら慰謝料代わりに請求しますけど。
乙女の三年間、無駄にした罪は重いわよ、このドクズ。と彼女は言った。
俺は煙に弱いから、めそめそと泣きながら彼女がバタンと閉めるドアの音を聞いていた……。
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