君に、贈る言葉

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 1年前に別れた彼女が結婚する。  そのことを知ったのは、先日久しぶりに会った共通の友人からの報告だった。招待状を見せてもらうと、そこには彼女と新郎の名前が並んでおり、それが現実なのだと実感する。  別れて1年での彼女の結婚に対して友人は嫌悪感を示していたが、俺は不思議と何も感じなかった。  俺たちは決して破滅的な別れをしたわけではない。ただ、彼女は俺以外に、俺以上に大切な人が出来てしまった。そして俺はその彼女の想いに気付き知ってしまった。その時点で2人の行く末は決まってしまっただけのことだ。  そして俺は、何の前触れもなく別れを切り出した。彼女は目を丸くし、そして見る見るうちに顔は歪み嗚咽を漏らす。その合間合間に聞こえてくるのは「ごめんなさい」と繰り返される謝罪の言葉だった。  おそらく、彼女は俺からの別れを予想していなかっただろう。だから敢えて自分から別れを切り出した。  振られることが怖かったわけではない。  彼女は、俺は何も知らないと思っていただろう。そういった意味で、自分はほんの少し優位な立場にいると思っていたと思う。自分の都合で、自分たちの関係を決められると思っていた中での別れ話だ。  悔しくないと言えば嘘になる。一瞬でも、彼女の中に後悔の念が生まれてくれればそれでいい。  別れたのは付き合い始めて4年目の記念日だった。 *  今、まさに彼女の結婚式が行われている。  俺にはもう見せることのない、あの笑顔をふりまきながら彼女は幸せになるのだろう。  俺は徐に携帯を握りしめ、1年前までは毎日のように見ていた携帯番号に発信する。コールが数回続き留守番電話に切り替わる。そのアナウンスをどこか他人事のように聞きながら目を閉じ深呼吸をする。  ——君は幸せだっただろうか。少しでも俺との未来を夢見てくれただろうか。  君との時間は俺にとって何物にも変えがたい有意義なものだった。その思いに、嘘はない。  いつかの未来に顔を合わせて笑い合い、その時はお互い幸せな家庭を築いていることを信じて、今はこの言葉を贈ろうと思う。 「結婚おめでとう」  君を心から愛していたよ。  ずっとそのまま残していた彼女のデータを、そっと携帯電話から消去した。  ふと画面が歪んだかと思うと、ぽたりと携帯の画面に水滴が落ちた。これが涙だと気付くのにさほど時間はかからなかった。  頰を伝い流れるこの涙の意味を、俺は1人考えていた。
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