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再び椿が保健室を訪れたのは、それから一週間後のことであった。
初対面の際、椿の一瞬の表情の変化を見逃さなかった穂希は、もう彼はここには来ないと思い込んでいた。ゆえに、驚きを隠せなかった。
「今日はノートを持ってきてみたんだ。……困ってると思って。余計なお世話だったらごめんね」
「あ、ううん、助かる」
これは紛う方なき、事実だ。
教室に馴染む事が出来ない上、勉強が苦手な穂希は、昨年も学業で酷く苦しんだ。学校生活においてマンツーマンで指導してもらうことも難しい為、今年はどう乗り切ろうかと困っていたところだったのだ。
心から感謝し、五冊ほどあるノートの、一番上に乗っていたものを捲る。
穂希が最も苦手とする数学の授業の内容が、整然と纏められている。
「凄い……」
文字や要点、図形の配置など、全てが完璧で分かりやすく、自然とそんな言葉が零れる。
「他のも見ていい?」
「もちろん」
一通り閲覧するも、欠如した部分が見えることはなかった。
圧倒されるあまり声を失っていると、椿が口を開いた。
「明日も学校来る?」
「……うん、多分」
「そっか。じゃあ明日もここに来るね」
佳澄椿という人間はまさに優等生そのもので、自身とはまるで全てが違っていた。もはや次元が違いすぎて、劣等感すら忘れる程だ。
だからこそ、椿が会いにくる理由が分からなかった。
単なる優しさか、同情か。それとも優等生にしか分からない意地のようなものなのか。
時々手首の切創に視線を感じながら、穂希はぼうっと考えていた。
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