第一話:憂う春、君の視線

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「上がって」  適当に靴を揃えて、内玄関に招き入れる。  昨日、数ヶ月ぶりの片付けをしたばかりなので、部屋は整然としていた。 「飲み物淹れてくる、座ってて」  椿は礼をして、促されるままにカーペットに着座する。 「プラモデル好きなの?」 「うん、組むのがね」  殺風景な部屋を囲んでいる車やロボットのプラモデルを、椿はもう一度興味深そうに見回した。  紅茶を蒸らす間、その背中を眺めてみる。じっと見つめていると、椿の動きが止まった。  視線の先には屑篭があった。中には、血の染み付いたティッシュが幾つも放り込まれている。 「あ、ごめんそれ。気持ち悪いよね」  慌てて屑篭を撤去しようと駆け出すが、穏やかな声によって阻止される。 「大丈夫だよそのままで。僕は平気だから」  メガネレンズ越しの瞳が、ニッコリと笑う。彼の表情に、嫌悪感などは一切感じない。  寧ろその顔は、喜色を浮かべているようにも見えた。
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