うつくしい本だと思っていた

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 夫は神妙な様子で謝って本を差し出して来た。  それから「ありがとう」と私がドリップで丁寧に抽出したコーヒーのマグカップを持ち上げた。  窓の外はやや薄暗く、しとしとと雨の降る音がする。  真新しい文庫本の一ページ目を開いた私は、すでに目で文字を追っていた。 「今日は雨だね。雨の日はコーヒーまで雨の匂いがする」  夫が、私の言おうとしていたはずのことを独り呟いていた。
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