目が覚めたらあなたを愛していました

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 身の回りがモノで溢れる現代、モノに心を支配されている人は少なくない。私自身もモノに支配されているように感じて、断捨離をすることにした。でも断捨離の欠点が、思い出に浸ってしまうこと。なかなか捨てるまでに至らない。そんな中、見慣れないおもちゃが出てきた。おもちゃというよりロボットと言った方が正しいだろうか。とても大きくて取り出してみると、私よりも高くて160cmぐらいはある。  「こんなものが何で私の部屋に?」  子どもの時は、人形よりもプラモデルが好きだった。親に隠れて祖父におねだりしたこともあった。でもこのロボットは買ってもらった覚えがない。少し不気味に思えて、もう一度片付けようと持ち上げると、背中部分に紙が貼ってあった。  “起動するには黄色のボタンを、停止するには赤色のボタンを押してください。”  ボタンがあると押したくなるのが人間。恐る恐る黄色のボタンを押すと機械らしい音がして、ロボットが頭から足にかけてヒビが入ると、中から男の人が現れた。この人もロボットなのだろうか。目を閉じたまま動かない男の人の肩を何度か叩くと、しばらくしてゆっくりと目を開ける。  「…ここはどこ」  「あの。あなたはロボット?」  私の声を聞くと上半身だけ起こし、表情のないまま私を見つめる。  「君は…名前は何だ」  「私の質問に答えてよ」  「俺の質問が先だ」  何と失礼な人。私の声など聞こえていないのか、どんどん話を進めていこうとする。  「言ったら答えてよね。名前は、佐倉いずみ」  「佐倉、いずみ。君だ。君に会いに来た」  表情は相変わらず変わらないけど、声だけが少し上ずって聞こえた。それにしても会いに来たなんて、ずっと押し入れに眠っていたくせによく言えたものだ。  「俺は佐倉いずみを愛している。君にそれを伝えに来た」  「は?初対面よね?それに私の質問は?」  「質問など忘れた。もう一度言え」  仮にこの男の人が本当に私のことを愛しているとして、これが適した言葉遣いだろうか。  「本当に呆れる…あなたはロボットなのかって聞いているの」  「あぁ、俺はアンドロイドだ。目が覚めたら、佐倉いずみを愛するようにシステムが組み込まれている。そして君は見事に俺を目覚めさせた。期限は一年。内蔵されている電池が切れたら、俺の人生は終わりだ」  「ちょっと言っていることは理解できないけど、私はどうしたら良いの?よく分からないから何もしなくても良い?」  「いや、俺に感情というものを教えてほしい。俺の一年間の任務はそれなんだ」  アンドロイドの言っていることは完全に矛盾している。目が覚めて愛していると言ったのに、感情を教えてほしいと。多分、システムの中に愛するという言葉が組み込まれているだけで、それがどういう感情なのかまでは組み込まれていないのだと思う。一年の間にアンドロイドに感情を教えるだなんて、私はその任務に誠実に応えられるだろうか。  「あなたは本当に私を愛しているの?」  「分からない。愛していると素直に言えるが、その意味は理解できていない気がする」  人間ではないものと一年間同居する日が来るとは思ってもみなかった。でもきっとこのアンドロイドは私のことしか知らない。私が愛するとはどういうことなのか、一年かけて教えてみせる。  こうして私とアンドロイドの一年間の同居生活が始まった。
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