捌場 一

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捌場 一

「靜華!」 靜華が地に伏して動いていない。吉右衛門は背中の傷口に掌をあてて抱き寄せる。 靜華の背中の傷口からは真っ赤な鮮血がとめどなくあふれ吉右衛門の身体を真っ赤に染め上げていく。 ……かすかに静華は反応した。 「あん……な……ウ……チ、あんたに言……わないかん……こ……と……あった……んや」 「あぁ。わかった。今はしゃべるな。後でいくらでも聞いてやる」 「今言……わな……も……う……言わ……れへんくなって……しまう……あんな……」 「なんだ……」 真っ赤に染まる手で靜華の手を握る吉右衛門。靜華の顔色は見る見る間に血色を失って青白くなっていった。 「ウチな……あんた……のことすっきや……ね……ん」 「あ、あぁ」 吉右衛門の涙が靜華の頬を濡らす。 「やっと……言えた……わぁ……ぁ……」 腕の中で靜華の全身の力が抜けていくのが感じられた。 「だめだ。だめだ。だめだ。靜華。起きてくれ。靜華、靜華」 血だらけの手で靜華の顔をなでながら抱きしめた。いつもの微笑も、鋭く見つめる瞳もそこには既に無くただ力なく腕に抱かれるのみだった。 「あ」 吉右衛門が思わず声を漏らした。 靜華の身体が黄金色に光を帯び始めた。 「靜華? お前、天に帰るのか? 嘘だろ? 本当なのか。 行くな! 行かないでくれ!! 靜華、いやだ。行かないでくれ!! くそっ。どうすれば。どうすれば」 吉右衛門は靜華の人となりに触れたことは無かったが、あの不思議な力は何処からきていたのか考えたこともあった。それでも、やはり、そこには自分の範疇を超える答えにたどり着いて、考えるのをやめていた。しかし、さっきの話と言い、今は、認めるしかない事を確信した。 ならば、答えは一つしかない。 「おい! 竜神! 見ているんだろう? 俺を助けろ!!」
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