番外編 メリークリスマスの牛

11/12
前へ
/104ページ
次へ
「ミンくんが4つに少名毘古那さんも4つ。僕が7個作って、残り15個かあ……」  カウンターに並ぶ牛のぬいぐるみを指折り数え、詩はため息をついた。  あのあとソンミンが目を覚ましたけれど、これ以上働かせるのはよくないと思って帰ってもらった。 「まあ、お正月まではあと1週間あるし。なんとかなるよね?」  他に誰もいない店内でひとりつぶやき、詩は次のぬいぐるみに取りかかろうとする。  その時気づいた。 (あれ、干支ぬいぐるみキットが少なくない?)  計算上は残り15個入っているはずの段ボール箱の中身が、2個だけになっている。  考えてみると祓戸が作りかけのものがひとつあったはずだが、それを差し引いてもやはり足りなかった。 (どういうこと!?)  詩は考えを巡らせる。  それからもしやと思い店の奥にある自宅に向かうと、リビングから声が聞こえてきた。 「ホントお前上手いなあ」 「別にこんなの病の神でもできる。それよりお前も黙って手を動かせよ」 「へいへい」 「……はぁ、さっきから何見てる?」 「だってさ、お前が働いてるところなんて千年単位で見てねえぞ」 「詩のために働けって、そっちが言ったんだろうが……!」  二人はリビングテーブルで向かい合い、ちまちまと針を動かしていた。 「祓戸、疱瘡さん……」  廊下から声をかけると、二人がぱっとこっちを向く。 「……ああ、詩。牛のぬいぐるみできてんぞ」 「ありがとう。こっちで作ってくれてるって知らなくて、びっくりした……」 「ほとんど疱瘡が作ったんだけどな。疱瘡が8個で俺が3つか?」  そんな祓戸の言葉を疱瘡の神が訂正する。 「こいつも完成した。俺の作った分はこれで9個だな」 「ありがとう、疱瘡さん」  テーブルの上のものを手に取ってみると、出来映えも申し分なかった。 「疱瘡さんって器用だったんだね」 「酒飲んでなければな」  祓戸がにやりと笑った。 「それであと何個作るんだ?」 「えーと……、あと3つ?」 「んじゃ、3人で1個ずつ作ってお終いか」 「うん……!」  それならすぐだ。詩はほっと気持ちが軽くなるのを感じた。 「本当にありがとう! おかげでお正月までゆっくり過ごせるよ」 「ああ、よかった。けど、今夜のクリスマスデートは疱瘡のものなのか?」 「えーと、うん」  数的に言えばそのはずだった。 「そうか。疱瘡お前、分かってると思うが、詩に変なことしようとしたら許さねえからな!?」  祓戸が念押しする。でも行くなとは言わないみたいだ。  この前は疱瘡の神のせいで、詩を黄泉の国まで助けに行くことになってしまったのに。  それを考えると祓戸は優しい。  ところが疱瘡の神は首を横に振った。
/104ページ

最初のコメントを投稿しよう!

100人が本棚に入れています
本棚に追加