番外編 メリークリスマスの牛

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「俺はいい。疲れた」 「は……?」 「詩はお前の氏子だろ? お前が勝手にお()りすればいい」  疱瘡の神は最後のぬいぐるみを作り終えると、欠伸(あくび)をしながら消えてしまった。 「えーと……、逃げられた?」 「いや、あれは俺に譲ったんだろ。疱瘡のくせにカッコつけやがって」  そして今ここには、詩と祓戸だけが残されている。 「今日はにぎやかだと思ったが、なんかいつも通りだな」  祓戸はすっかりリラックスした顔になっていた。 「ふふっ、そうだね」  それから詩はふと気づいて切り出す。 「あ、それで今夜のデートなんだけど……」 「ああ、そうだな、どうする? どうせだからなんか食いに行くか? 俺はどっちでもいいが」  祓戸の視線を受け、詩はポケットからスマホを取り出した。 「実は、少名毘古那さんが僕の名前で勝手にホテルを予約してて……」 「ホテル!? ん、でも少名毘古那は? あいつどこ行ったんだ?」 「大国主さんに呼ばれて行っちゃった。だからね、祓戸……」  言葉が続かず視線で訴える。 「『クリスマスディナー付き宿泊プラン、カップルで過ごすスイートなひととき』……」  画面の文字を読み上げ、祓戸がまた視線を上げた。 「もしかして行きたいのか? 詩は……」 「当日のキャンセル料は100パーセントなんだって」 「なるほど……」 「……というのは口実で、祓戸となら行きたいなって今思った。だって僕たち、その……」  ずっと好き同士なのに曖昧な関係のままだ。  こんな機会でもないと先に進めない。  そもそも、住む世界が違う者同士だから……。  でも、もっと近くに行きたい。  それを伝えたいけれど、気恥ずかしくて上手く言葉にできなかった。  祓戸が片手で口元を覆った。 「なあ詩……俺も二千年生きてるが、人間からホテルに誘われたのは初めてだわ!」 「僕だって25年生きてて初めてだよ! でも、祓戸と初めてのことがしたい」 「初めて、か……。お前なー、この無自覚が!」  笑いながら乱暴に髪をなでられた。 「……いいんだよな?」 「いい」 「わかった、全部お前の望み通りにする」  ふわっと抱きしめられる。それから頭の上にあたたかなキスが降ってきて……。 「祓戸……」  見上げると、今度は唇同士が合わさった。 「詩……」 「うん」 「愛してる」  それから甘いため息とともに、すっと体が離れる。 「……?」 「そんな目で見んなよ。くっついてるとこのまま押し倒したくなる……。けど、この先は夜までお預けだな。ぬいぐるみ作りの続きがある」 「続き……。うん、そうだね!」  リビングのテーブルに向かい合って座った。  二人で過ごす部屋の空気があったかい。  そして生クリーム入りのカフェモカよりずっと甘い夜、二人はついに思いを遂げたのだった――。 <番外編:メリークリスマスの牛 おしまい!>
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