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しかし、助けなど望むべくもない。
今、目の前にいるのは「彼」だ。
何もかも忘れたくて、あの日から、私にとっては最高の男友達だった彼を利用してきた。
抱かれてもいいと、本気で思っていた。
むしろ抱かれることで全てを忘れてしまえるならと─────
馬鹿な娘……。
全てを諦め、全てをあるがままに任せ、ただ涙だけがとめどもなく流れ落ちてゆく。
そんな時間が最後まで流れていく筈だった。
しかし。
不意に彼がその動きを止め、私の躰からその身を離した。
「抱けないよ。やっぱり」
ぽつりと彼は呟くと、暫し虚ろに視線を漂わせた
が、それも束の間、彼は完璧に自分を取り戻していた。
「どうして……」
しかし、私はまだ、間の抜けたその一言を口にするのが精一杯だ。
「抱くんだったら本気で抱きたい」
きっぱりと彼はそう言った。
瞳は意志を秘めていた。
「泣いている君。奴をまだ想っている君。そんな君を抱くのは、僕には耐え難い。思っていた通りさ。嫌というほどわかったよ」
呟きながら彼は、天井を仰ぐ。
何かに堪えているように。
だから、今まで……。
それは言葉にはならなかった。
自分がたまらなく恥ずかしい。
どうしてあんなに無知で、そして、あれほど傲慢でいられたのだろう。
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