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「でも。それでもずっと君を抱きたかった。君の肌に触れている間中離したくないと、心底思った。けれど、君はあまりにも痛々しすぎて。僕に抱かれたって、君は決して立ち直れない。それはわかっていたんだ。けれど……今まで何度君を自分のモノにしようと思ったかわからない。君と過ごす夜がどれほど僕にとって狂おしかったか……。そう、君が考えていた以上にだ」
私は言葉もなく、ただ彼の告白が胸を貫く。
「君が、奴を忘れられなくてもそれでも、僕は……」
形容しがたい沈黙が空間を支配している。
その間、どんなに私は彼の言葉を待っていただろう。
「帰ってくれ」
彼は冷静にそう言い放つ。
それは当然すぎる結末だった。
もはや何を言っても無駄だということだけを、私は悟っていた。
そして私は気づかぬ内に、二つ目のかけがえのない恋まで失ってしまったのだと……。
私が服を身につけている間、彼は私に背を向けたまま、片膝を立て煙草を手にしていた。
紫煙がゆらぐ。
彼の背中は何故だか小さく見えた。
“煙草はだめよ!体に悪いんだから”
逢う度いつもそんな忠告をし、煙草を取り上げる私を苦笑しながら見ていた彼。
その眼差しはいつでも私へ向けられていたのに。
けれど、その温かい瞳は、もう私を見つめはしない……。
「今更だけど」
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