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最後になるであろう彼の部屋を去る前に、私はゆっくりと口を開いた。
「君のこと、好きだったわ。友人として、男として。君の信頼、裏切っちゃったね。今まで、特にこの半年間、本当に良くしてくれたのに……」
あの恋を失った夜。
初めて彼の部屋で一夜を明かした。
泣きじゃくるだけの私を、ただ抱き締めてくれていた。
自分からは口唇にさえ触れようともせず。
それ以来、彼の部屋で過ごす時間だけが私には救いだった。
傷から流れ出る血を拭い去る為に、渇いた心を癒す為に、彼の存在が必要だった。
いつでも変わらない態度で私を包んでいてくれていた彼……。
「有難う」
さようなら……。
次の恋をする時には。
もっと─────
「悪かった。君を追い詰めた」
ドアノブに手をかけたまま、立ち去れずに、佇んでいた私のすぐ後ろに彼がいた。
心臓の音だけが響く。
信じられない。
振り返れない。
そんな私を彼はそっと抱き寄せる。
「今から始めよう。きっと遅くはない」
もっと素敵なキスをしよう─────
そう誓った通りに、彼と私は初めて、心を重ねるように幸せな、とても幸福なキスを交わした。
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