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 郷里から電話がかかってきたのは、ある六月の晩のことだった。  その時俺は大学近くの居酒屋にいた。もう何度目かも定かではないゼミの飲み会の席で、俺は絡み上戸の先輩から恋人はいないのかと詮索されている最中だった。 「いい人紹介してあげよっか? そろそろ真面目に恋愛しときなよ。ね、ね、会ってみなさい。先輩命令」  酔客の奇声嬌声。毎度おなじみのフライドポテトと枝豆の後味。それに先輩の絶え間のないおしゃべり。カシスオレンジのグラス片手に愛想笑いを浮かべつつ、内心ではそういったあれやこれやに辟易していた俺は、これ幸いと中座したのだった。
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