あなたに言えないコトバがある。

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「三浦くん、大丈夫かな」  弁当を食べながら映実は言った。小柄なのに大きな二段弁当につまったおかずをポイポイと口に放り込む。 「あいつ、前も練習中に倒れたんだよな」 「細いもんね。ちゃんと食べてたのかな?」 「映実くらい食べてりゃ倒れなかっただろね」 「普通だよ?」  そう言って大きな唐揚げをほおばる。私なら二個で満腹だな、と思っていると「おいしー」と満面の笑みになった。映実の可愛い笑顔を見るとほっこりした気持ちになる。  恋愛をしたことがないから、この感情が何なのかわからない。同性の「好き」と異性の「好き」の境界線はどこだろう。映実に抱くこの感情に名前はあるんだろうか。  走った後なのに食欲ないな、と弁当のふたを閉めると担任が肩を叩いた。私の他数名のクラスメイトにも声をかけ、教室を出る。みな駅伝の選抜メンバーで関内も混ざっている。  私達が職員室に入ると担任は言った。 「三浦くん、失神して倒れたときに捻挫したらしいの。来週の駅伝には出られないわ。代わりの走者なんだけれど」  サッカー部の男子と関内が「俺ムリだし」「三浦の代わりなんかいるか?」と言った。彼は最終走者だった。他の地区でも最後に走るのは相当速い選手ばかりと聞いている。 「先生、どっちかが最後を走るとしても後一人どうするんですか。クラスの運動部連中、どいつもこいつも怪我してますよ」 「それで相談なんだけど……」  担任と視線がかち合った。他のメンバーも一斉に私を見る。 「貴橋(きはし)さん、最終走者をお願いできないかしら」 「……私ですか?」 「本当なら男子が走るべきなんだけど、もう日がなくてお願いできそうな生徒がいないから」  私だって急にはきつい。普通の長距離走じゃない、駅伝最終走者、全速力の5kmだ。  返事ができずに困っていると関内が言った。 「オレが走ります。貴橋は女だから無理だって」  ちらりと見ながら言ったその顔に苛立ちを感じた。
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