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「急にごめんね、真樹」
「いや。いいけど、姉ちゃん仕事は?」
平日の午前中。玄関のインターホンが軽快に響くのとは反対に、私の眉間はくっきりと皺を寄せて「誰だよ?」と毒付いて突然の来訪者を招き入れた。
「取引先がこの近くでね、次の予定までちょっと時間があったから久しぶりに真樹の顔見に来たの!」
爽やかな笑みを浮かべてそう言う直子は私と違ってキラキラ輝いている。
「コーヒーでも飲む?」
「コーヒーはさっきいただいたんだよね。だからお構いなく〜」
「って言われてもね……」
「じゃあお茶でいいよ」
「冷たいの? 温かいの?」
「あったかいので」
「はいはーい」
ソファに腰を下ろす直子の豊かな髪がふわりと揺れる。
ハリとコシのある艶やかな髪の毛に、まつ毛は長くくるりと上向き、ぽってりとした唇は血色も良く赤いルージュが美しさを際立たせている。
それなのに同じ母親から産まれたはずの私は、肌はボロボロ、しみもそばかすも増えていく一方で唇だってケアしてもすぐに乾燥して皮むける。髪もパサパサで枝毛もあちこちにある。
私たち姉妹は何もかも正反対。
私にないものを姉ちゃんは全部持っている気さえする。
姉ちゃんが羨ましいと思ったのはいつからだったかもう思い出せない。
鈍臭い私が唯一姉ちゃんに優ったのは先に結婚して子どもを産んだことくらいだろうか。
でも結婚にしたって見兼ねた両親が私のために縁談を持って来てくれたから叶ったことなのだ。縁談さえもなければ私は今も姉ちゃんと同じ独身だったかもしれない。
もしそうだったとしたら、姉ちゃんはバリバリ働けるのに対して私は実家で親のスネをかじって生きていただろう。
こんな私は劣等感だらけの出来損ないなのだ。
両親は昔から私たち姉妹を比較していた。
『直子は全く心配することはないのに、真樹は本当に誰に似たのかしらね?』『こんな初級レベルもわからないの?』『簡単でしょ、直子は初見で出来たわよ。真樹はどうして出来ないの?』
――ごめんなさい、ごめんなさい。出来なくてごめんなさい。
何度、泣きながら謝っただろう。
姉ちゃんは、褒められて、抱き締めてもらえるのに、私にあったのは両親の重いため息だけ。
私は親の愛が欲しかった。
――愛されたかった。
私が望んだのは、ただそれだけ。
そして今もまた私、北島真樹はそれを欲している。
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