155人が本棚に入れています
本棚に追加
「陽央、お前のその格好は何だ? 夜遅くに帰ってきて。ホストのバイトでもしてるのか?」
「は? ホスト?」
親父に思い切り眉をしかめられて、自分の服装を確かめる。
黒地に細い白のストライプが入った細身のスーツ。白のシャツに、若干の光沢があるシルバーのネクタイ。
これ、ホストっぽいか……? 周りからの評判は悪くなかったんだけどな。
俺は顔を上げると、親父に負けないくらいに眉をしかめた。
「そんなわけねーだろ。俺がやってんのは塾講師のバイト。保護者に会うこともあるから、服装はスーツ必須だし、中学生みてるから授業は夜なんだよ」
「文句あるか?」と。そんなふうに見上げると、親父は黙って頷いた。
「それより、こんな時間に何の用?」
俺は片手でネクタイを緩めると、腕時計に視線をやった。
時刻はもうすぐ23時を回る。
若いときはやたらと忙しそうで、日付をまたいでも会社から帰ってこなかった親父だが、ここ数年は遅くても9時には必ず帰宅している。
実家では母親が夕飯を用意して待っているはずだ。
それがこんな時間に、俺に一体何の用があると言うのだろう。きっと、ろくな用じゃないに決まってる。
そう思いながら、鞄の中に入れたはずの煙草とライターを探る。
最初のコメントを投稿しよう!