2. 誰も知らない

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図書室の鍵を閉めていると、新田はそれを 廊下の端に立って待ち、振り向いた俺を見て 切り出した。 「携帯の動画…消してくれます?」 誰もいない廊下で、一定の距離をとって話す。 聞き取れる、ぎりぎりの小さな声で。 「それは無理だ」 新田は指先で唇を撫でるようにして、うつ向く。 「心配しなくても、お前があの事 誰かに話したりしなければ 世に出ることはないよ 何事もなければお前が卒業したら消す」 新田はしばらく考えるような顔で黙りこみ 分かりました、と 一言いうと 俺に背を向けて歩き出した。 遠ざかる猫背の背中を、俺は黙って見送った。 俺が罪悪感を感じている姿を見せたら。 今度は空かさず交渉をしてくる。 新田はやっぱり、したたかだ。 ホテルから出てきたところで、バッタリ俺と 鉢合わせても、開き直ったような顔をしていた… あの態度を忘れては、足元を掬われかねない。 気をつけなければ…と、あらためて思った。
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