5. 不確かな日々

2/6
前へ
/152ページ
次へ
「違うって何だよエロガキ」 「…エロガキ…!?」 俺は新田からペンを取り上げて 机の上の小テストのプリントに 数ヵ所丸をつけた。 新田は俺が何をしたのか分からず 怪訝な顔でそれを見つめる。 「先生は心配だよ。あんなに感じやすくて… またすぐに、金持った知らないおっさんと 悪いことしちゃうんじゃないかなぁ?」 「…しません!」 新田が俺を睨んで即答した。 その素直な必死さがかわいい。 俺はそれとなく、まわりに誰も居ないことを 確認して新田に手を伸ばした。 新田は一歩だけ下がって、廊下に面した壁に ぶつかって止まる。 俺はそんな新田の長い前髪を、指先で分けて その水分の多いキレイな目を覗きこんだ。 新田は蛇に睨まれた蛙のように、固まって 俺の目を見つめ返す。 「良い子だ。 もったいないから安売りするな」 そう言って頭をポンポン叩いて 教室を出た。 「今チェックした所、よく覚えとけよ?」 そう言って、さっき印をつけたプリントを 指差すと、新田が、え?、と机を見る。 「ちゃんと戸締まりして帰るんだぞ~」 このまま二人でいたら本当に手を出して しまいそうだ。 妄想の中で何度もしたように… 教室なんかで新田を襲うなんて事をしでかしたら 俺は いよいよヤバいヤツだ。 どんだけサカってんだ。 その時 俺は深く考えず、何の罪悪感も持たず 新田にテストに出題される問題をいくつか 教えた。 テストに出る、とハッキリ教えたわけではないし 新田が聞き流し、ちゃんと予習をしなければ 答えられない。 だから罪悪感なんて何もなかった。 ・ ・ 期末テストで、新田の英語はこれまでで一番の 点数を採ったけれど、学年トップの奴らの 成績には及ばない。 新田の点数がちょっといつもより良いからって 気にするヤツは1人もいなった。 だから余計に俺は、悪いことをした自覚なんて 少しも産まれなかった。
/152ページ

最初のコメントを投稿しよう!

399人が本棚に入れています
本棚に追加