2. 誰も知らない

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「……先生も…」 「…ん?」 「先生も…初めてじゃ……ないですよ…ね?」 上目遣いに俺を見て、唇を震わせながら言った。 「ああ」 ためらわず答えた。 あんな事しておいて初めてだ、なんて通じない。 それに、それを新田が誰かにばらしても 何も得しないだろうし、最悪学校などに 告げ口されたとしても、成人している俺の性癖に 何か言える訳じゃない。 ゲイは犯罪じゃない。 俺が隠さなければならないのは あの夜、未成年の教え子を 無理やり 犯した事だけだ。 俺があっさり男と経験があることを 認めると、形勢逆転できなかった新田は また視線を反らしてうつ向いた。 「どうしてあんな事をしてるんだ? 金か?」 また、だんまりだった。 あれ?俺はこんな話しがしたい訳じゃ 無かったはずだ。 答えないならそれでいい。 「俺は一応心配してるんだ。 どうやって引っかけてるか知らないけど 危ない…変なヤツだっているだろ… あ、まぁ、俺が言うのも変だけど…」 その時新田がプッと小さく笑った。 ー あ、ああ! 笑った! 「……あんな事はやめてほしい… 何かあってからじゃ遅いんだ…俺で良ければ 相談にのるから…まぁ俺が1番信用できない だろうけど……」 また新田が顔を隠すようにうつむいて笑う。 「こら、笑うな」 一緒に笑いながら、注意する。 笑ってくれてホッとしたけど 教師らしい態度は保たなければならない。 「………乱暴して悪かった」 一呼吸置いて真面目な声で言うと 新田がこちらを見た。 「…言い訳になるとは思ってないけど ちょっと酒も入ってて、魔が差したんだ … ごめん」 新田のとび色の目が、じっと俺を見ている。 何を考えてるのか読み取れない、逆に こちらの心が見透かされてるみたいな目だった。 俺はその視線に耐えられなくなって立ち上がり 時計を見た。 「下校時間だ、出るぞ」
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