11人が本棚に入れています
本棚に追加
軋む階段を足早に降りつつ、身支度を整える。
襟足を小鳥の尻尾のようにくくって階段脇のキッチンへ向かうと、腕を組んで仁王立ちをしている人物がいた。キッとルークを睨みつけ、開け口一番「遅い!」と叱責する。
「ごめん、母さん!」
顔の前で両手を合わせて許しを請うが、返事が返ってこない。ちらりと様子を窺うと、数秒前までの憤怒の表情とはうって変わって、呆れを含んだ笑みを浮かべていた。
「まったくもう……いつもは私達より早いのに、なんで今日に限って寝坊するのかねえ」
ため息混じりにそう言い、ルークのシャツの襟を整える。ルークが乾いた笑い声を漏らすと、彼の肩を軽く叩きカウンターの中へ戻っていった。
全くだ。なんであんな夢を見たんだか……しばらく見てなかったのにな。
疑問に思いつつ袖を捲くっていると、店の入り口辺りから「珍しいな」という声が聞こえた。
「父さん!」
彼はおはようと声をかけ、手に持っていた今日使うのであろう果物や野菜が入っている籠をカウンターに置いた。
「お前が寝坊するなんて、何年ぶりだ?」
自分の記憶が確かなら最後に寝過ごしたのはあの日――そう、六歳の時以来だ。
「えーと……十二年ぶり?」
クククと彼――ハンクが笑った。
「よりによって、こんな大事な日に寝坊するなんてついてねぇな」
思わずムッとした顔を向ける。ハンクは早く始めるぞ、と言いたげに頭に三角巾を巻きつけながら顎をしゃくった。
自分も取り掛かるか、とルークは今一度エプロンを結び直した。
最初のコメントを投稿しよう!