第一章 〈1〉邂逅

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 今日は、ルークの働いている店"エクレール"の開店二十周年記念だ。  山間にある小さな村の片隅という、なんとも立地が悪い所に建っているが、幸いなことに連日常連客で賑わっていた。店の看板息子であるルークは、持ち前の明るさと人懐っこい笑顔で、この村ではちょっとした有名人だ。  加えて、母親譲りの赤髪はこの地域では珍しく、一度見たら忘れないだろう。昔から彼の周りには人が絶えなかった。   そんな彼の唯一の欠点は――魔力を持っていないこと。  この国にはいわゆる魔法というものが存在しており、誰もが生まれつき魔力を保持していた。国の枢軸が集まる王都となると、上級魔法を扱える人々で溢れているが、ルークが住んでいるような都会から外れた田舎町の場合、極々簡単な魔法しか使えない人ばかりだ。  だが、そのような弱い魔力の人でも何かしら魔法を使えるため、ルークは幼い頃「魔力なし」とよくからかわれていた。これもまた、髪色同様母親譲りというのでマチルダは気に病んでいたが、当の本人は全く気にしていなかった。  魔力なんかなくても別に困らない。それに自分には料理という特技があるじゃないかと。己の欠点を気にする様子も見せず、積極的に人と関わる姿に、いつの間にか彼をからかう者はいなくなった。  彼自身の性格もあるが、周りがからかうのをやめたのは、少なからずこの男の存在も関係しているだろう。  男の名は、アルフレート・ヴァイスという。  この村で唯一、王都の役人達にも引けを取らない魔力を持つ人物だ。ルークの幼馴染で、彼より五つ歳上であるアルは、幼い頃から優秀で他の子よりも頭一つ分、いや二つ分秀でていた。  彼は誰よりもルークのことを気にかけており、本当の弟のように接していた。ルークに何かあると誰よりも早く駆けつけ、驚異となるものをご自慢の魔力で遠慮なく排除する。  その過保護っぷりから、ルークに手を出したら恐ろしい制裁が待っていると噂が広がり、からかう者は徐々に消え去っていった。  それもそうだ。自ら死を進んで選ぶようなことはしないだろう。  そんなアルは現在、亡き父親の後を継いで医者になり、各地を周って病で苦しんでいる人々を助けている。一年の半分が巡回診療で潰れてしまうアルが村に顔を見せるのは、決まって大事な身内のお祝い事がある時だけ……そう、まさに今日だ。  村の誇りである彼が帰ってくる時は、必ず総出で出向かえた。もちろんルークも、小さい頃からお世話になっている憧れのアルとの再開を心待ちにしていた。  
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