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部屋を引き払い、全ての家具を処分してスーツケース2個とボストンバッグだけを持って僕はこの街に来た。というより帰ってきた。
僕は高校まで住んでいた地元に帰ってきたのだ。
まだ街が動き出す前の早朝、僕は駅の隣の公園のベンチに座っていた。
何も考えずただただ逃げることだけを考えてここまで来たけど、こうやって一息ついた途端僕の中が空っぽになってしまったような気がした。
どんな扱いをされようと、どんなに酷い関係であったとしても、僕にとってあの人は全てだった。
あの人に会ってからの十年、僕の生活はあの人を中心に回り、僕の生きる理由でもあった。
なのに自分から手を放して逃げてきてしまった。
・・・これからどうやって生きて行けばいいんだろう。
そこにどれくらい座っていただろうか・・・。
不意に名前を呼ばれて見上げた先に、驚いたような顔をした男性がこちらに向かってきた。
真田だった。
真田は中学高校が同じだけのただの同級生だった。正直、僕は名前も覚えていなかった。なのにあっちは僕を覚えていて、卒業してから十年経ったというのに僕を見つけ、声をかけてくれた。
『瀬名・・・だよな?瀬名由宇。覚えてるか?中高一緒だった真田だよ』
お前変わらないな、と言いながら僕の前に来ると、僕の荷物を見て驚いた顔をした。
『・・・すごい荷物だな。旅行にでもいくのか?』
至極当然のことを言われ、何だか僕も誤魔化すのが面倒になって本当のことを言ってしまった。
『夜逃げ』
『え?』
『夜逃げしてきたんだ』
そう言った時の真田の顔は驚きを通り越して、ちょっと間抜けだった。
でもその後、僕の言葉をそのまま受けてくれた真田は住むところや仕事を心配してくれて、その日のうちに全て整えてくれた。
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