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朝、いつものように会社に行くと既に鍵が開いていた。 「おはよう。瀬名」 こちらに声をかけてきたのは真田だった。まあ、ここの鍵を持ってるのは僕と社長の真田だけだから、他の人だったらまずいんだけどね。 「おはよう。今日は早いね」 というか、最近あまり会社にも居ない。 「実は昨日言い忘れたんだけど、今日から一人新しいのが入るんだ」 何やらガサゴソと動かしていると思ったら、新しいデスクの用意だった。 僕のちょうど真向かいだ。 そこの人が昨年度いっぱいで辞めてから、ずっと空いていた場所だ。 「こんな時期に珍しいね」 そろそろ秋も終わり、冬に向かおうというこの時期に転職なんて・・・。 「新卒で入った会社が合わなかったらしい」 最近よくある話だろ? そう言ってデスクを整えると真田は僕の隣に座った。 確かに昔と違って、最近は辞めることにあまり抵抗がないように思う。 僕もあっさり辞めたしね。 でも新卒と言うことは・・・。 「真田にしてはやけに若いのを入れたね」 新卒ならまたすぐに違うところに入れそうだ。 「・・・正直ここじゃなくても、とは思ったんだが後輩の紹介でさ。それに、お前の仕事も減らそうと、どの道もう一人雇おうと思ってたところだったから」 僕のために雇わなくても・・・とは思ったけど、最近本当に忙しくて真田自身ももう一人欲しかったのだろう。 「と言うことで、お前教育係な」 まあ、そうなるよね。 「了解」 そう返事をしたところでドアがノックされた。この会社でノックをする社員はいない。 「おはようございます。今日からこちらにお世話になる、白井健人(しらいけんと)です。よろしくお願いします」 ドアが開くなり緊張した声と共にその青年は、こちらを確認せずに腰を九十度に折った。 時計を見るとまだ8時だ。この会社は9時出社なので来るのが早い。それとも早めに呼んだのだろうか? そう思って横を見ると、真田も驚いた顔をしている。 「・・・白井くん、ちょっと来るの早くない?まだみんな来てないよ?」
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