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元々あまり人付き合いが得意な方ではない。前の職場でも、親しい人はいなかった。それどころか、今まで友人と呼べる人もいなかった。 けれど、別段それが寂しいとも辛いとも思った事は無い。むしろ一人の方が良かった。だから、どちらかと言うと、自分から一人になるように仕向けてた節がある。 でもここではそんなことも言ってられない。 今日みたいに自分から声をかけないと、僕を頼ってくれないのだ。 どうしたらもっと気軽に頼ってもらえるだろう・・・? そんなことを思いながらパソコンに向かっていると、オフィスのドアが開いた。 「おかえり」 入ってきたのはこの会社の社長、真田だ。外回りから帰ってきたのだ。 「またお前、残ってるのか」 僕の顔を見るなり渋い顔をした。 真田は中学、高校の同級生だ。それほど親しかったわけではなかったが、他の人よりは気安い。 「原さんがテンパってたからね。仕事を代わったんだ」 パソコンから目を離さずに言うと、真田は僕の隣の椅子に座った。 「原ちゃんか・・・。いい子なんだが、そそっかしいんだよな・・・」 残業する程の仕事はさせてないはずなんだけど・・・、と口の中で呟いた。 確かに仕事的には大したことは無かったんだけどね。ミスをしなければ・・・。 「まだ環境に慣れてないんだよ。それに、そういう子だから雇ったんだろ?」 新卒で社会人になったばかりで授かってしまった原さんは、折角入った会社を辞めざるをえなくなった。でも、同じ年の相手も新卒。とても彼だけの給料じゃ生活できないと困っているところを真田が拾ったのだ。 「・・・まあな」 真田は人に使われるのは性に合わない、と会社を起こした時、社会的に立場の弱い女性を積極的に採用した。 自分が母子家庭で育ったせいで、母親の苦労を目の当たりしてきたせいだ。 だから、この会社は子供を持つ女性が多く、男性社員は社長の真田の他は僕だけだ。
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