432人が本棚に入れています
本棚に追加
でもそうやって心にフタをしてしまったから、直人と離れた途端苦しくなった。
心と体が直人を求めたのに、認めたのは体だけ。心の方はその思いに目を瞑り、欲求にも気付かないふりをした。そのため、バランスを崩してしまった。
苦しいだけの離れてからの一年。
ただただ辛かった。苦しかった。
僕はなんのために生きてきたのか、そんなことすら見失っていたような気がする。
何故こんなにも苦しかったのか。
考えたこともなかったその答えを白井くんが教えてくれた。
その答えを僕が認めることによって、僕の中で何かが変わるような気がした。
白井くんは僕の思いを理解し、受け入れてくれた。
でも僕の心は・・・。
ひとしきり泣いて顔を上げると、その気配を感じて、白井くんは腕を緩めてくれる。
僕はこの腕に甘えていいのだろうか?
僕を好きだと言ってくれている彼に、縋ってもいいのだろうか・・・?
「・・・僕は白井くんの思いに答えられないよ?」
泣きすぎて少しかすれた声。ちゃんと言葉になっただろうか?
白井くんはこんなに優しくて、僕を好きだと言ってくれるけど、僕の心はまだ直人を思っている。
そんな都合よく彼に頼ってもいいのだろうか・・・?
「分かってます。瀬名さんがまだ直人さんを思ってるって。本当は、あなたの心の中の直人さんが消えて、そこに自分が入れたらいいななんて甘い考えで来たんですけど、間近で見たあなたのあまりの憔悴ぶりに、心の中にはまだ直人さんがいるって分かりました」
白井くんはそっと体を離し、向かい合うと僕の手を取って両手で包んだ。
「こんなに痩せてしまって、この一年、どんな思いで過ごしてきたのかを思うと、やるせなくなりました。なんでもっと早く見つけてあげられなかったのかと、自分が情けないです」
手の中の僕の手を、優しくさする。
最初のコメントを投稿しよう!