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「瀬名さんの心の傷が癒えて、直人さんのことが過去になった時、あなたのことが好きで仕方がない男がここにいるって改めて認識してくれれば、それでいいです。それまで、オレはあなたの避難所になりたい。あなたが苦しくて辛い時、その弱音を吐露し、遠慮せずに泣ける場所に、オレはなりたいです」 そう言ってニコッと笑った。 少し前までその笑顔が心に痛かった。直人の奥さんを思い出すから。 でも、今は彼女の顔は思い浮かばない。白井くん自身の顔だ。そしてほのかに心が温かくなる。 「それに、瀬名さんには申し訳ないけどオレ、今の状況がうれしいんです。瀬名さんを好きになってこの二年、オレはあなたの視界にすら入らず、存在も知られてなかったんです。おまけに半分はあなたを見失って姿も見られなくて・・・。なのに、今はこうやって向き合って、存在どころか名前まで呼んでくれて、触ることも出来る。こんな幸せはないです」 ニコニコと本当に幸せそうに笑う白井くんに、僕の涙がまたこぼれた。それを見た白井くんは慌てて手を離し、ティッシュを差し出す。 ティッシュ、いまさらだよね。 それがなんだかおかしくて、泣きながら笑ってしまった。 折角なのでティッシュを貰い涙を拭くと、ついでに鼻もかんだ。 なんだかかっこ悪いよね。いい歳した男が鼻水垂らして泣くなんて。それがまたおかしくて、笑っていると、急に白井くんがティッシュを勢いよく引き出して鼻を押さえた。 驚いて見ると、鼻を押さえているティッシュがみるみる赤く染っていく。 白井くんはティッシュで鼻を押さえながら鼻の付け根をギュッと摘んだ。 「・・・瀬名さんの顔、ヤバいです。そんな急に色っぽく笑わないで下さい」 色っぽい? 三十男が鼻垂らして泣きながら笑った顔が色っぽい? 「・・・変な事言うね。白井くんは」 興奮して鼻血が出たのかな? 初めて見た。そんなマンガみたいに鼻血出す人。
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