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「・・・痩せたよな。この手首だって折れそうだ。ここに来て一年、お前はどんどん痩せてさ・・・。みんな心配してるんだよ」
そのまま手を掴まれたまま、僕は真田を見た。心配そうな目とぶつかる。
「・・・体質だよ。ちゃんと食べてるし。仕事は好きなんだ。やってる方が落ち着くし、そんな遅くまでやってないよ」
本当は日付が変わる頃までやってるし、食事もあまり摂らない。
でも、そんなこと言ったら余計心配される。
「この間、柴田さんに怒られたよ。瀬名に仕事をさせ過ぎだって。いつも帰りは最後だし、朝も一番に来てるし、その上どんどん痩せていくし・・・。社長はどんな仕事をさせてるんだ、て」
僕はこの会社の鍵を預かっている。社長が外回りばかりなので、代わりに朝の解錠と、帰りの戸締りをするのだ。
「・・・鍵を預かってるんだから、当たり前だろ?真田は忙しいし」
「確かにオレも忙しさにかまけて会社の戸締りを瀬名に任せっぱなしだったけど、柴田さんに言われて初めてお前の行動が気になったよ」
だから、しばらく見ていた。
そう言われて、全部バレたと分かった。
僕は殆どこの会社で過ごしていた。家にいたくなかったからだ。
自分の仕事の他、この会社の備品や資料の整理など、とにかくなんでもいいから頭と手を動かしていたかった。そしてクタクタになって、帰ったらすぐ寝られるように・・・なにも考えなくてもいいようにしたかった。
「みんな心配してるんだ。だから、最近お前を頼らなくなっだろう?原ちゃんのだって、彼女から頼まれたのか?」
確かに、僕が話しかけるまで一人で頑張ろうとしていた。
・・・僕のせいか。
みんなの負担を軽くするためにここに入ったのに、これじゃただの役立たずだ。
「ただでさえ話しかけにくい存在なのに、余計頼みにくかったね。折角会社に誘ってくれたのに悪いな・・・」
僕には真田の期待には応えられなかったようだ。
「いや、違うって。何一人で勝手に辞めようとしてるんだよ。だから、みんなはお前を心配してるんだって」
・・・僕に仕事を頼めないから?
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