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僕は一年前、何もかもを捨ててここに来た。
仕事も暮らしも人間関係も、全てを捨てて逃げてきた。
あの時、僕は逃げるしかなかった。あの人から・・・。そして、あの人から離れなれない自分から、逃げなくてはならなかったのだ。
あの人との関係をなんて言うのか、僕には分からない。
恋人、愛人、セフレ・・・。
どの言葉も違う気がする。
どれも愛情や気安さ、親しみを感じるが、僕とあの人の間にそんなものは存在しなかった。
あの人はただ、僕のところに来ては僕を抱くだけだ。そこに言葉も優しさもない。
あの人は自分の都合で僕のところに来ては僕を抱き、終わったら帰っていく。そこに僕の事情も意志もない。
強いて言ったら、性処理係かな・・・。
なんて酷い扱いなんだろう。
僕はあの人にとって、都合のいい存在。
どんなに酷く扱っても文句も言わず、妊娠の心配もない。ご機嫌をとる必要も無い。
男同士である事さえ目をつぶれば、こんなに都合の良い存在はないだろう。
行為の最中もあの人は優しくなんかない。自分のいいようにしか僕を扱わない。
本当に・・・酷い・・・。
なのに、僕の体はそんな中でも快楽を探し、身を委ねてしまう。
あの人が僕を人形のように扱うのなら、人形に徹しようと思った。
どうしてそう思うのか・・・?
僕はずっとあの人に酷い扱いをされ、優しい言葉どころか声すらかけてもらえず、ただ体だけを繋げる存在。
だけど、僕はいつもあの人が来るのを待っていた。あの部屋で、一人で・・・。
こちらの予定などお構い無しのあの人はいつも突然来る。何の連絡もなく。だから僕は、いつあの人が来てもいいように、どこにも寄らずに真っ直ぐ家に帰るのだ。
そして、来てくれた時は喜び、来なかったら落胆した。
そんな僕の彼への思いはなんだろう・・・?
恋?
愛?
僕はあの人を好きなのだろうか?
愛しているのだろうか・・・?
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